『免疫とは何か。がん免疫とは何か。』のページで、「がん細胞に「×マーク」シールを貼り付けさえすれば、免疫細胞は攻撃を開始する。」と書きました。
以下、実際にどう攻撃をしていくのか、がんに対する免疫システムを細胞レベルで見ていきましょう。
免疫細胞の種類
免疫システムをになう免疫細胞にもたくさんの種類があります。これを働き方から大きく2つに分けられています。 自然免疫と獲得免疫です。
自然免疫には、マクロファージ、樹状細胞、好中球、NK（ナチュラルキラー）細胞があります。
獲得免疫は、リンパ球のB細胞とT細胞ですが、T細胞は、さらにヘルパーT細胞、キラーT細胞、サプレッサーT細胞、レギュラトリーT細胞に分かれます。
そしてこの両方の性質を持っているものとしてNKT細胞というものもあります。
免疫細胞のがん攻撃メカニズム
人間の免疫システムは、がんに対して、この自然免疫と獲得免疫が2段構えで攻撃をする仕組みになっています。
まず、最初に異物（がん）を発見すると、自然免疫のマクロファージや樹状細胞などが働きます。片っ端から食べて分解します。 しかし、食べる量には限界があり、満腹になると死にます。 また、NK細胞などは全身をパトロールしていて、異物（がん）を見つけ出すと、やっつけます。
じつは健康な人でも、体の中では、毎日数千個ものがん細胞ができていると考えられています。 しかし、これ自体はとくに心配することではありません。 通常、がん細胞の力より、免疫細胞の力のほうが強いので、免疫がきちんと機能していれば、がん細胞が増殖してかたまりを作る前に、免疫がそれを排除してしまうからです（予防効果）。
ところが、老化などによって免疫の働きが落ちていたりすると、がん細胞が生き残って増殖を始め、がんという病気が発症することになるのです
毎日できる生まれかけのがん細胞の排除を担当してしているのが、NK細胞やNKT細胞です。
このあたりまでは、「体の免疫」を上げて健康な人（若者）と同様の免疫細胞の力を回復すれば、とくに「がんの免疫」を問題にする必要もありません。（予防効果の問題です）
しかし、敵が強力だと自然免疫では限界があり、がんが組織を形成して大きく育ってしまったときには太刀打ちできません。
その場合は、第2段階として、獲得免疫の免疫細胞達が発動します（治療効果の問題です）。
自然免疫のマクロファージや樹状細胞は、相手が手ごわいときは『がん抗原』という「×マーク」シールをがん細胞に貼り付けて、さらに強力な攻撃部隊であるヘルパーT細胞などにがん細胞の特徴を伝えにいきます。
その結果、T細胞はがん細胞を異物として識別できるようになります。これを専門的に「抗原提示」と呼んでいます。
とりわけ樹状細胞は、すぐれた抗原提示能力によりT細胞を活性化できるので、がんの医学的免疫療法にも利用されています。
樹状細胞などから知らせを受けたヘルパーT細胞は、キラーT細胞やB細胞に攻撃目標を知らせて攻撃命令を出します。
この攻撃命令を受けたキラーT細胞やB細胞は、そのがんに照準を絞って攻撃にかかります。
B細胞は抗体を作る機能を持ったリンパ球で、がん抗原に特異的な抗体を作り、それを放出して攻撃します 。
これに対してキラーT細胞は、がんに取り付いて殺しにかかります。このキラーT細胞の殺傷力はとりわけ優れていて、NK細胞の3倍以上の能力を持っているといわれています。
また、1度攻撃に出動したキラーT細胞などの獲得免疫は、これを覚えていて、再び同じがんが現れると、直ちに出動するという仕組みになっています。
このように、キラーT細胞はかなり強力ですが、T細胞はもともと強い攻撃力を持っているわけではありません。
がん細胞に「×マーク」シールを貼り付けた樹状細胞がリンパ節に行き、「×マーク」を貼ったことを報告する（『非自己』であることを伝える）と、そこではじめてT細胞が活性化し、がん細胞への攻撃が始まるのです。
しかも、組織を形成して大きくなったがん細胞は、さまざまな免疫抑制物質を出して免疫システムに見つからないようにバリアを張るというのです。
このように、大きくなったがん攻撃（治療効果）の主役は、獲得免疫のT細胞、なかでもキラーT細胞ですが、いかにして「×マーク」を貼り付け、がんが『非自己』であることを知らせて、このキラーT細胞を強力に誘導するかが大事であることがわかるでしょう。
それが、「がんの免疫」の問題です。
（がんの予防効果ではなく、治療効果の問題と言い換えてもいいかもしれません）
以上の最近の研究成果が医療現場でどう活かされているかを簡単に見ていきます。
『医学的がん免疫療法』に進んでください。