免疫とは何か
免疫とは何か。「私たちの体を守る生体防御のシステム」とよく言われます。
しかし、実はこれは間違いです。 正しくは、自分の一部である『自己』と、そうではないもの=異物(専門的に、『非自己』という)を識別し、異物=『非自己』を排除するシステムのことです。
「病原性があるから排除して、病原性がないから排除しない」ということではありません。 免疫が判断しているのは、それが『自己』か、それとも『非自己』かという、ごく単純な判断だけです。
どんなに害悪のあるものでも『自己』であれば排除しないし、どんなに有益であっても『非自己』であれば攻撃を開始してしまうのです。
そのため、臓器移植を行うときには困った事態を引き起こします。移植される臓器は病気を引き起こしたりしないし体や生命の役に立つのですが、他人の身体からやってきた『非自己』なので、免疫の攻撃対象になってしまうのです。
そんな免疫の唯一の例外が、赤ちゃんを妊娠したときだそうです。
胎児のDNAの半分は父親から作られたものなので、母体にとっては明らかに『非自己』なのです。 しかし、母親の免疫がおなかの胎児を攻撃したりすることはありません。
これも詳しいメカニズムは分かっておらず、まさに生命の神秘です。
「死」を身近に感じていると、こうした「生」にまつわる生命の神秘には、涙が出るほど感動を覚えます。
しかし、健康食品等の販売業者に、そこをつけ込まれないようにしなければなりません。
まずは、免疫は、自分の一部である『自己』か、あるいは異物である『非自己』かというごく単純な判断しかしていないということ。 そして、どんなに害悪のあるものでも『自己』であれば排除しないことを知ってください。
がん免疫とは何か
「はじめに」のところで、「体の免疫を上げる」ことと「がんの免疫を上げる」こととはまったく別の問題であると書きました。
「体(全体)の免疫」とは異なる、「がんの免疫」とは何でしょう。
(正しくは、がんに対する免疫です。恐れ入りますが、適宜読み替えてください)
免疫は、上記のような単純な判断にもとづいて、外敵、例えば細菌やウイルスなどが体内に侵入してきたときは、直ちに作動して、細菌やウイルスを攻撃・排除します。
ところが、がんの場合は、細菌やウイルスのようなわけにはいきません。
なぜなら、がん細胞は、もともと私たちの体の中の正常な細胞から誕生したものなので、『自己』か、あるいは『非自己』かがはっきりしないところがあるからです。
たしかに、がん細胞は遺伝子の変異によって本来の『自己』にないたんぱく質を持っていて、アミノ酸の配列がAAAではなくAABになっていたりしますが、それでも外からの侵入者ではなく、自分の体から発生したものです。何年もかけてがん化しているため、『自己』との境界があいまいになってしまうのです。
そして、がんが異物=『非自己』であることがはっきり分かるまでは、免疫システムはがん細胞のそばを通っても、笑顔であいさつして通り過ぎていくのです。
では、がんが異物であるかどうかは何で判断するかというと、それは『がん抗原』というものです。これはがん細胞の表面に出ているタンパクの断片(ペプチド)です。
『がん抗原』という「×マーク」シールをがん細胞に貼り付けることができれば、強力な武器を持つ免疫細胞は「こいつは『非自己』だ。」と判断してやっと攻撃を開始するわけです。
しかし、つい最近までは、こういうことが分かっていませんでした。
医学的療法の分野においてさえも、ただやみくもに「体(全体)の免疫」を高めさえすればいいと考えられてきたのです。
「×マーク」シールをがん細胞に貼り付けなければ、免疫細胞は笑顔で素通りしてしまうことを知らなかったのです。
「がんの免疫」とは、この「×マーク」シールをがん細胞に貼り付ける作業ができる免疫システムのことなのです。
つぎは、免疫システムががん細胞を攻撃する手順を細胞レベルで見ていきましょう。
『がん免疫システムとは』に進んでください。